大判例

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東京高等裁判所 昭和35年(う)878号 判決

被告人 日置容正

〔抄 録〕

所論は、原判決には事実の誤認にあらざれば、法令適用の誤があるというのである。

よつて按ずるに、原判決挙示の証拠を総合すれば、原判示犯罪事実は優にその証明ありとすることができ、所論に徴し記録を精査しても、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認が存在するものとは認められない。すなわち、本件で問題になつている全国電気通信労働組合の機関紙「全電通」の昭和三十四年四月二十五日付号外の記載についてこれを観るに、「山田候補あと一歩、明るい区政のために私たちの一票を」なる標題の下に「山田候補は、区政の実情をみなさんにうつたえ、区政を刷新するため、新らしい力をそそぎ入れるために現在敢斗をつづけています。山田候補はあと一歩というところです。港の区政に新らしい力が加わることは、東京が明るくなり真に平和な日本がきずかれるいしずえとなります。みなさん、大切な私たちの一票一票を明るい区政のため投じましよう。」なる記事及び「当選めざして街頭に立つ山田候補」なる標題の下に「本当に安心して私たちの港区政を任せられる山田候補にぜひとも最後までご支援くださいますよう、さらにお願い申上げます。山田候補は元気いつぱいがんばつております。山田候補の街頭第一声をつぎに要約してみました。どうか若い情熱ある山田候補を港区政刷新のために、みなさんの手でおくりこむようお願いします。」なる記事並びに「住みよい港区に山田敬治」なる標題の下に、同候補者の政見、略歴等を掲げているのであり、その記載内容からみて、まさしく港区会議員候補者たる山田敬治という特定の公職選挙の候補者に当選を得しめるため、選挙権者に対し同候補者に投票するよう依頼または勧誘することを内容とした選挙運動をなしているものであることは明瞭であるといわなければならない。所論は、右機関紙は、公職選挙法第百四十八条において定めている新聞紙に該当し、右号外の記載内容は同条において自由になし得ることを認められている選挙に関する報道及び評論の範囲を出ていない旨主張するのであるが、たとえ本件「全電通」の号外が所論の如き新聞紙に該当するとしても、前記記載内容を目して単なる「選挙に関する報道ないし評論」に過ぎないものと論ずることは到底許されないといわなければならない。すなわち、公職選挙法においてはその第百四十二条において選挙運動に用いられるべき文書(図画)の頒布は所定の通常葉書によるべきものと定め、ただ、同法第百四十八条において定められている要件に該当する新聞紙(又は雑誌)においては選挙に関する報道及び評論をするという限度において選挙運動をなすことが認められているのであるから、新聞紙の記載内容が報道及び評論の範囲を超えていると認められる場合には、そのような新聞紙の頒布は右第百四十二条の違反となることは当然であつて、本件は労働組合の機関紙を利用して、これにより文書による選挙運動をなさんことを企て、機関紙の号外の内容として前段説明の如く、特定の公職選挙の候補者に当選を得させる目的で、これに投票をなすべきことを依頼、勧誘する記事を掲載し、広くこれを多数の選挙権者宛郵送頒布したものと認められるのであるから、公職選挙法第百四十二条において定められた法意にもとるものであることは言をまたないところであり、これと見解を等しくする原判決の事実の認定及び法律の適用は相当という外なく、原判決には所論の如き事実の誤認もなければ、また、法令の解釈、適用の誤も存在しないというべきである。論旨は理由がない。

(三宅 井波 東)

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